奥泉光『神器<上> 軍艦「橿原」殺人事件』新潮社
禍々しき死の影――言葉とはこれである。 p.18
観念では死に親しんでも、それはいまだリアルに俺に迫ってはいなかった。これはつまり、単純に、俺が生きているということだろう。 p.71
やや赤みのかかった蛍光灯の光に満たされた、天井の低い十畳間ほどの矩形の箱の中に一人佇むこの男は一体何者なんだろう? なぜこの男はこんな所で、こんな風にしているんだろう? この男は誰だ? p.103
生贄は捧げられた。にもかかわらず、神風はそよとも吹かぬ。真夏の昼下がりみたいに、風は巳み、風鈴も鳴らぬ。つまり生贄がまだまだ不足なのだ。神はなお血に飢えておられるのだ。 p.265
「ゴムは、うまいですか?」
「ゴム? ヤベーよ。ゴム、スゲーヤベー。ゴム、ウマすぎ」 p.386