井上荒野『雉猫心中』マガジンハウス
猫の影。それは、わたしにとっては、待つ、ということと結びついている。猫は簡単にいなくなるからだ。野良猫はもちろん、飼い猫であっても、ある日、いつものようにふらりと出かけて、そのまま帰ってこなくなる。わたしは窓から目が離せなくなる。そこに、猫の影が映るのを、ひたすら待つ。 p.25
俺は自分の気持ちが挫けそうになるのを感じた。何のためなのか、どこに向かおうとしているのかわからないまま、かろうじて保っていたものが、じつは思っていたよりずっと脆くて、今にもぱりんと割れてしまいそうだった。 p.245