谷崎由依「冬待ち」文藝春秋(『舞い落ちる村』収録)

背の高い木製の書架のあいだにときどき誰かが経っている。森のよう。道標のある道をたどっていくようだ。糸乃は鞄から幾つかのメモ書きを取り出して、本の住所をたずねて歩く。幾つにも分岐する書物の家を横目で見ながら、誰々他著とあるのを一瞬、他者、と読み間違える。目というものは見たいものだけを見るようにできている。一冊一冊左腕に抱き込むように手にしていく。借りられるのは全部で五冊。その取り合わせの中に探している答えが浮き出てくればよいと思う。  p.86

 ――私はあらゆるものを分類したの。分類、分類、分類していって、すっかり終わったと思ったらまた机の上にはわけのわからないものが載っていて、状況は少しもよくなっていなくて、私は仕方なく、基準を変えてふたたび分類を始めた。分類し終わってから見てみると、そこにあるのはやっぱり混沌にすぎなかった。だからふたたび、別のやり方で分類した。そうしたことを何度も繰り返していまに至るの。そしていまでも何ひとつ分類し終わっていない。  p.118

 耳の奥で、小さく小さく喇叭が鳴った。――Triumphant!Triumphant! 小さく小さくなっていくその人が言った。眠りに落ちるその隙間で、誰かがピアノを弾いていた。けして躓くことのない天上のクラヴィーア。半音階ずつずれて昇っていく、あるいは言葉を夢で見てのか。それとも夢の本だったのか。
 χは中心を持っており、その点を軸に回転させればすべては鏡対称に、または点対称に合致する。時間も、虚実も。  p.156

 すべては夢の中のことなんじゃないだろうかと思えてくる幻想的な作品。京都が舞台なためか、なぜか山尾悠子を連想。繊細で詩的でイメージ喚起力ある端正な文章に酔いまくり。幻想性はもちろん、とても繊細に紡がれた少女小説の趣きもあって、大好きー♪