マイケル・カニンガム『星々の生まれるところ』集英社

 死者は機械の中に戻って来る。かれらは人魚が海の底から船乗りに向かって歌うように、生ける者に誘いの歌をうたうのだ。  p.68(「機械の中」より)

 一つの感覚が心の中に湧きあがった。血がふつふつと湧き立つような感じだ。一つの波、一つの風がやって来て彼を認めたが、愛しみも、憎みもしなかった。彼が感じたのは自我の――憧れと恐れを抱き、変化する内面の出現だった。それはいかなる物よりも、彼に親しかった。彼は、それに応えようとする実体が樹々や星々から発して、自分のまわりに集まっているのを知っていた。
 ルーカスは立って星座を見つめていた。ウォルトはこれを見つけるために、僕をここへよこしたのだ。今、彼は理解したと思った。ここが僕の天国なのだ。天国はブロードウェイでも揺り木馬でもない。草と沈黙、星々の野原なのだ。あの本は夜ごとそれを僕に語っていた。僕は死んだら、この欠陥のある身体から離れて草になるのだ。こうしてここに、いつまでもいるだろう。それは自分の一部なのだから、恐れる理由はない。自分の空虚さ、魂の不在と思っていたものは、ただこれを焦がれ求める気持ちだったのだ。  p.106(「機械の中」より)

「誰も本当に死ぬことはない。僕らは草の中に生きつづける。樹々の中に生きつづける」  p.173(「少年十字軍」より)

 僕は僕自身を賛える、
 僕が考えることは君も考えるだろう、
 なぜなら、僕に属する原子はすべて君にも属するのだから。
  p.181(「少年十字軍」より) 

天使は昼も夜も、いつもそこにいて、みんなのために重い翼を広げているが、天国には気に入った者しか入れないのだ。  p.218(「少年十字軍」より)