津島佑子「サヨヒメ」(『電気馬』新潮社 収録)

そう。その通り。だれよりもなによりも大切な子どもをいけにえにして、なにかの神に捧げ、このひとりの女はこれから先も生きつづけようとしている。でも、その女もいつかまた、なにかの神のいけにえにされていく。なんの神なのか。時の神。希望の神。女だけではなく、男も同じこと。若い妻だって、それをまぬがれることはできない。  
 でも実際のところ、いけにえにされるのは、それほどこわくはない。いけにえを捧げなければならない立場の絶望に比べれば。  p.108