2008-07-18から1日間の記事一覧

大倉崇裕『聖域』東京創元社

「山と判り合おうなんてしないことです」 松山が言った。 「え?」 「山と人が判り合うなんて、無理なことだと思います。そんなのは、思い上がりじゃないですか」 草庭の心の動きが、松山にはすべて判るらしい。 「人が死ぬのは悲しいことですが、それは、山…

大倉崇裕『聖域』東京創元社

懸垂下降に入る直前、草庭はそっと下を覗き見た。切れ落ちた断崖の先には、何もなかった。高度差四千メートル以上。 p.4(プロローグより) 痺れるような感覚が、指先にまで這い上がってきた。 草庭正義は、指先をさすり続ける。 p.8