堀江敏幸「トンネルのおじさん」(『未見坂』新潮社収録)

この靴、だれのなんだろう? 根ではなくその靴を見ながら少年は問いを呑み込み、おじさんのかけ声で一気に引くと、めりめり音を立てながらロープが伸び切ってぴんと張り、醜いかたまりがわずかに持ちあがった瞬間いちばん細いところがばきんと折れて、ふたりのお尻を湿った土にやわらかくたたきつけた。  p.245

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