川上弘美「ゆるく巻くかたつむりの殻」(『どこから行っても遠い町』新潮社より)

「好きな人が死ぬと、すこし、自分も死ぬのよ」  p.284

 生きていても、だんだん死んでゆく。大好きな人が死ぬたびに、次第に死んでゆく。
 死んでいても、まだ死なない。大好きな人の記憶の中にあれば、いつまでも死なない。  p.288

 平蔵さんが死んでも、源二さんが死んでも、あたしのかけらは、ずっと生きる。そういうかけらが、いくつもいくつも、百万も千万もかさなって、あたしたちは、ある。
 いつか人間がこの世から絶えてしまうまで、あたしも、平蔵さんも、源二さんも、生きている。この町の、今ここにいる人たちにつらなる、だれかの記憶の奥底で。そのだれかにつらなる、まただれかの記憶の奥底で。  p.294

 戦前から今まで、物語の中で時間が流れる。近く遠く、この一連の商店街の物語で響いていた魚春の三角関係の全容がここにきて知ることができる。死の香りが濃厚に立ちこめる物語で、ただただ寄る辺ない男女。でも、、、、、、。ぽかぽか温かい縁側でひなたぼっこしてるかのような温かみを感じてほっこりしてしまう。これ以上ないほどしっくるくる終わり方だったと思う。