井上荒野「声」(『あなたの獣』収録 角川書店)

絶望したのよ、あなたには……。
 眠れない夜、耳に響くときと同じように――蛍みたいに僕を囲んでふわふわと浮かび、そのせいで眠れないのだと最初は考えているが、やがて子守歌さながらに、それらこそが僕を眠らせるものとなる――、どの女の声もやさしげだった。やさしげで倦んだ声。僕はそれを味わいながら、女への答えを考え、結局、絶望という言葉を、
「つまらなくなったんじゃないかな」
と言い換えた。  p.185