津村記久子「地下鉄の叙事詩」(『アレグリアとは仕事はできない』収録 筑摩書房)

何か、保存しておかなければいけないエネルギーを、通勤の作法に使ってしまったような気分になる。  p.137

電車は暴力を乗せて走っている、とミカミはときどき思う。自動車のような、ある種能動的な暴力ではなく、胃の中に釘を溜め込むように怒りを充満させ、乗客はそれぞれに憎み合いながら、死に向かうトンネルの中を走っている。  p.151