平田俊子「キャミ」(『殴られた話』収録 講談社)

わたしを恋しく思う気持ちが電話をひとこえ鳴らすのだ。カズミ、どうしてる。お前と別れて俺は寂しいよ。時々無性に会いたくなる。お前を強く抱きしめたくなる。でも、俺にそんなことをいう資格はないよな。どこかで偶然会わないものかな。そしたら俺たちもう一度始められるのにな。チリッとひとこえ鳴く電話から、わたしはそんな言葉を聞き取る。  p.88〜89

 カツ丼のおかげでおなかはすいてないけれど、目はぺこぺこにすいている。わたしは二ヶ月あなたを見ていない。あなたを見たがり、わたしの両目はしきりに空腹を訴える。  p.94