平田俊子「キャミ」(『殴られた話』収録 講談社)

 ショッキングピンクの塀の前までくると急に切なさがこみあげてきた。立ち止まって塀をなでながらあなたのことを考える。あなたはきょうこの塀にさわっただろうか。きのうやおとといはどうだろう。あなたのぬくもりが残っていないか、手をすべらせて確かめる。ごつごつした石の表面は端から端までひんやりしている。  p.79