2009-02-09から1日間の記事一覧

平田俊子「亀と学問のブルース」(『殴られた話』収録 講談社)

「同姓同名の人に会うのって初めて」 「わたしも」 「わあ。こういう顔をしているんだ」 「こういう顔かあ」 「和美って名前、わたし嫌いなんだよね」 「同じ同じ。わたしも嫌い」 「人に説明するのは簡単だけど、いい名前だねとはいってもらえないよね」 「…

平田俊子「亀と学問のブルース」(『殴られた話』収録 講談社)

子どものころ、わたしには特別な力があった。走っている車を一瞬のうちにとめることができたのだ。 p.105

平田俊子「キャミ」(『殴られた話』収録 講談社)

わたしを恋しく思う気持ちが電話をひとこえ鳴らすのだ。カズミ、どうしてる。お前と別れて俺は寂しいよ。時々無性に会いたくなる。お前を強く抱きしめたくなる。でも、俺にそんなことをいう資格はないよな。どこかで偶然会わないものかな。そしたら俺たちも…

平田俊子「キャミ」(『殴られた話』収録 講談社)

ショッキングピンクの塀の前までくると急に切なさがこみあげてきた。立ち止まって塀をなでながらあなたのことを考える。あなたはきょうこの塀にさわっただろうか。きのうやおとといはどうだろう。あなたのぬくもりが残っていないか、手をすべらせて確かめる…

平田俊子「殴られた話」(『殴られた話』収録 講談社)

妙な具合に傷ついていた。宇宙にほうり出されたみたいに、自分が誰ともつながっていないと感じた。椎名のことを思った。ひどく遠かった。何十年も昔に死んだ男のようだった。 p.54 じわじわと悔しさの水位が上がっていく。あんな女にどうして殴られなければ…

平田俊子「殴られた話」(『殴られた話』収録 講談社)

女の右腕が飛んできてわたしの首を激しく打った。鈍い音が店の中に響き渡り、居合わせた人たちが一斉にこちらを見た。女は薄笑いを浮かべている。思い知ったか、もう一発殴ってやろうかという顔だ。わたしはあわてて逃げ出した。途端に、背中に衝撃を感じた。…

北山猛邦『踊るジョーカー』東京創元社

「いいか悪いかの問題ではないな。やらなきゃいけない。それが『正しい』ってことだ」 「名探偵は『正しい』?」 「そうとは限らないが……」 人生を懸けたトリックで他人を殺害し、運命を変えようとする人々。探偵はその運命を矯正する力を持つ。それだけに躊…