辻村深月「雪の降る道」(『ロードムービー』講談社より)
自分の持っているもの全てを、ヒロの前に投げ出した。いつだって、そうだった。みーちゃんの宝物も笑い声も、いつだって彼女本人のためのものではなかった。そうすることで、彼女はヒロから悲しみだけを受け取った、ヒロの悲しみを漠然としか知らなかった彼女は、それでも同じ悲しみを少しでも自分のものにしようと大きな目を涙でいっぱいにしたのだ。そうすることしかできなかったのだ。 p.256
覚えているヒロ一人を置いて、みんなが忘れてしまうわけではない。兄ちゃんもみーちゃんも、ヒロと一緒に歩いている。この白くて冷たい道を歩いている。 p.282
ここじゃない、どこかへ向かって歩み続けている彼ら。そんな様子の彼らを描いた三編ともがまさしく「ロードムービー」なんだなと読み終えて思った。集団の中に埋没できない強烈な個性がまぶしく、痛々しくも気高く美しい思春期の子供たちを描くとなんて上手い作家なんだろうかとつくづく痛感した。好き好き〜♪