桐野夏生『女神記(ジョシンキ)』角川書店

ナミマ、一番始末に悪い感情は何か知ってるかい?そうだ、憎しみなのだ。憎しみを持ったが最後、憎しみの熾火が消えるのを待つしか、安寧は訪れない。が、それはいったいいつのことやら。私はイザナキによって、こんな地下の冷たい墓穴に押し込められてしまったのだから、ここにいる限り、憎しみの火は消えないのだ。  p.85

「毒があるの。そうよ、昼があれば夜があって、陽があれば陰もある。表と裏、白と黒、世界はふたつに分かれる必要がある。なぜなら、ひとつだけでは何も産まれないからなの。ふたつあって初めて互いを引き立て合って、意味を作るんだそうよ」  p.221