生田紗代「魔女の仕事」(『ぬかるみに注意』収録)講談社

似たような話を聞くたびに、友人が恋人に変わるその瞬間をこの目で見たい、といつも思う。さなぎが蝶に生まれ変わるように、そこに劇的な変化はあるのかないのか。  p.109

 私は思春期が終わる頃には、自分の母親を理解しようとする努力をやめた。愛しく不可解な存在をわからないものとして認めたとき、母娘関係は平穏な空気を帯び始めた。そして、どこでも大なり小なり、母親とはそういうものであり、我が家のあの人もそう特別な存在ではないことを知った。なるほどね、私は思ったものだ。家族とは母親への憎しみを軸に形成されている。  p.111