白岩玄『空に唄う』河出書房新社
――熱いとか痛いとか感じないとさ、自分が平坦になっていくような気がするの。 p.104
碕沢さんはぬくもりを確かめるように僕の脚に数秒さわると、なにやら神妙な顔をして、静かに手をもとに戻した。
――うん。つながってる、って感じ。 p.105
――なんか、私が死んでもみんなの人生は続いてて、そういうのって、空いた穴がまたふさがっていくみたいでさ、ちょっと寂しくなっちゃった…… p.162
――ねぇ、ほんとになんでもしてくれるの?
目を見て訊かれ、一瞬あらぬことを想像したけどうなずいた。
――じゃあ膝枕して。 p.200
すっかりきれいになった自分の部屋は、夢のない現実感を漂わせている。それは自分が思っているよりもずっと堅固なものだった。そこには夢や希望を挟みこめるような隙間はなく、その空気が僕に訴えていることはただひとつと言ってもいい。 p.211〜212
それでも後ろからしつこく声が飛んでくるので、聞こえないフリをした上に軽く鼻唄を唄ってやる。気がつくとそれがお経になっていて、碕沢さんに言われたことがちょっとわかったような気もしたが、それはつかめない煙みたいに夜風の中に消えてしまった。 p.244