北村薫『鷺と雪』文藝春秋

――身分があれば身分によって、思想があれば思想によって、宗教があれば宗教によって、国家があれば国家によって、人は自らを囲い、他を蔑し排撃する。そのように思えてなりません。  p.68(「不在の父」より)

 ――人の世の常識とは何だろう。真実とされていることも、時には簡単に覆る。
 怖い、と思った。  p.96(「獅子と地下鉄」より)

 多くの人の死を表す≪マッサカー≫の後に、≪マッカーサー≫を繋げたといえば、大将は気を悪くするかも知れない。しかし、こういう本の出た年、それを兄が読んでいた時、≪ダグラス・マッカーサー将軍≫が日本に立ち寄ったというのも、わたしからすれば不思議な偶然に思える
 神の手は、人には計り知れぬ動きを見せるものだ。  p.187(「鷺と雪」より)

 

多くの魔は、様々な形で、人の心の内に潜む。  p.231(「鷺と雪」より)

何事も――お出来になるのは、お嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様方なのです」  p.244(「鷺と雪」より)

 窓の桟の上は勿論、垂直の硝子の面さえ粉砂糖を吹き付けたように白く飾られていた。見通せる透明なところから、大渦のように旋回しながら宙を流れて行く雪が見えた。
 ――いつか、遠い昔にこういう眺めを見た。
 そう思った。それは不可解な、幻の記憶なのだろう。
 だがこれから自分は、この冷え冷えとした白い窓を、いつまでも生きた思い出として抱いて行くだろうと予感した。  p.254(「鷺と雪」より)

 山村暮鳥『聖三稜玻璃』、川端康成『浅草紅団』、長谷川如是閑『倫敦』、サッカレー『虚栄の市』、『黒死館殺人事件』、芥川龍之介文芸的な、余りに文芸的な』、薄田泣菫『白羊宮』、三木露風『廃園』、北原白秋邪宗門』。