川上弘美「夕つかたの水」(『どこから行っても遠い町』新潮社より)
大きくなると、自然に、いろいろなことがわかってしまう。
めんどくさいなあ、と、ときどきあたしは思う。でもしょうがない。時間は、たつ。あたしは、成長する。あたしの目には、それまでうつらなかったものが、うつるようになる。そしてまた反対に、うつっていたものが、うつらなくなる。 p.62
世界に対して疑いを持たないで、どんどん行っちゃうひとたち。 p.67
「じゃあ、お母さんはうれしいとき、どんなふうなの」聞いてみる。
またしばらく、お母さんは考えていた。
「水の中に沈んで、それでね」お母さんは静かに説明する。
「ゆっくり水をふくんでいって、しみとおっていって、でも最後にはね」
「最後に?」
「ふくみすぎちゃって、かなしくなるような、そんなふうな感じ、かしら」 p.69
小学生のころ、譲くんのことが好きだった女の子の話。