川上弘美「貝殻のある飾り窓」(『どこから行っても遠い町』新潮社より)

泣くもんか、と思って、こらえた。いつの間にか自分が雨の写真を撮らなくなっていたことに、その時わたしは、はじめて気がついたのだった。  p.241

 雨の日の風景写真を撮るのが趣味の私。偶然喫茶店「ロマン」に勤める赤いくちべにをひいたおばさんあけみと知り合って、奇妙な交流が芽生える。