三崎亜記「七階闘争」(『廃墟建築士』収録)

「アルファベットや五十音だって、配列はあくまでも便宜的なものでしかないでしょう?階数もそれと同じなんです。一階の上に二階、二階の上に三階って順序に置かれているのは、混乱を来さないように便宜的に定められただけ。現に、世界最初の七階は、地面の上に直接造られていたそうですよ」 
「七階」という階が、他の階から切り離されて単独で大地に建つ状況を想像してみる。それはどうしても「一階」にしか思えなかった。  p.25

「なぜ、七階にこだわっちゃいけないの?」  
 逆に尋ねられて、私は勢いを失い、言葉に詰まってしまう。
「何もない場所でも、その人にとってはかけがえのない場所だってこと、あるでしょう。それを他人が、そんなものには意味がないなんていうことは出来ない。そうでしょう?」  p.45