2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

藤谷治『船に乗れ!1 合奏と協奏』

「未来はある 空を見上げたまま、父はいった。 「それでも、未来はあるんだ」 僕は父を見なかった・ 「そうだろ?」 僕は答えなかった。 p.31 僕は何か、ただ透明な寂しさみたいなものが、胸の中に染み通っていくのを感じた。そのときは言葉にならなかった…

山崎ナオコーラ「お父さん大好き」(『手』文藝春秋収録)

「いたわり」という感覚が全ての人間に備わっているのは不思議だ。 落ち込んでいるときには必ず、周りの人から励まされる。 悩み事など決して相談しないような遠い相手から、急に優しくされるのだ。 さんさんとふりそそぐ日光のように。 p.127 自分のレゾン…

山崎ナオコーラ「わけもなく走りたくなる」(『手』文藝春秋収録)

昔から私は、変わっていない。ときどき、わけもなく走りたくなる。 p.123

山崎ナオコーラ「笑うお姫さま」(『手』文藝春秋収録)

「ひとりの男に『いい女』と思われたら、それで満足した方がいいのかしら」 「そうだろう」 「ふうん」 p.111 女は泣き続けた。「私のライフ・ワークが、『王の前で笑うこと』だけだったなんて、むなしいったら。泣けるわ」。変な人生。 p.113

山崎ナオコーラ「手」(『手』文藝春秋収録)

ストロベリー味は、現実の苺とは似ても似つかないものだが、日本人が共通して持っている「お菓子の苺味」というものの、明るく薄っぺらい風味がして、頭を撫でられている気分になる。 p.21 私にとっては、こういう男は意味があるというか、いて欲しいという…

坂木司『夜の光』新潮社

「昼は他人で、夜は仲間。これってかなりスペシャルな感じがしない?」 p.23「季節外れの光」 じっと眺めていると、自分に向ってぐわっと迫ってくるほどの星空。むっと立ち上る草いきれ。虫の声。仲間の気配。 世界が、くるりと完璧な円を描いた瞬間。今な…