ドロシー・キャンフィールド・フィッシャー『リンゴの丘のベッツィー』徳間書店

けれどもベッツィーは、この先、何度も同じようにおどろくことになるのです。今生きている人たちも、長い時間の流れの中で昔とつながっているのだということを、ありありと感じるたびに……。  p.79

 誕生日がこんなに心にのこるすてきな日になった子なんか、きっとほかにはひとりもいないわ!  p.241

西加奈子『きりこについて』角川書店

皆、不味いものをこの世で一番美味しい、とまで思えた「うっとり」していた子供時代が、懐かしいのである。
 そして、お酒の力を借りないと、馬鹿らしい一言に大笑いすることが出来なくなってしまった大人の自分を、少しのセンチメントをもって、思い返すのである。  p.42

「世界で一番、猫がええんです。」  p.119

 自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。
 これは、きりこが自分自身に対しても、言いきかせた言葉だった。
「ぶすやのに、あんな服着て。」
 あんな言葉に、屈することはなかった。
 彼らは、「きりこ」ではない。きりこは、きりこ以外、誰でもない。  p.158

「世界は、肉球よりも、まるい。」  
 きりこの口の中は、今日も、この世の不思議に、満ちている。ぐるぐるぐる。  p.210

平田俊子『さよなら、日だまり』集英社

 裁判官や弁護士にはありふれたことでも、わたしにとっては初めてのことだ。結婚にとって離婚は死だ。簡単にそのときを迎えてはいけない。たくさん苦しみ、ぼろぼろにならなければいけない。  p.141

幸せが日だまりになってこの部屋を守ってくれている。夫と暮らしているとき、わたしはそんなふうに思った。日だまりの中にいると気持ちが安らいだ。日だまりは優しくわたしを抱きしめてくれた。この部屋の一番いいところは、広さでも静けさでもなくて、南に面した大きな窓辺に日だまりができることだった。
 日だまりをわたしはここに置いて行く。この先、わたしの前に日だまりは二度と現れないだろう
。  p.144

乾ルカ『プロメテウスの涙』文藝春秋

 生きるということは、ただそれだけで尊いのだろうか。それがどんな性質のものであっても、心臓が動いて、体温があればそれでいいのか。意識もはっきりしていれば、なおいいのか。
 もはや苦痛しかない世界に何を見出せばいいというのだ。  p.160

 リーダビリティはものすごく高い作品だけど、勢いだけで読ませて、なんかイマイチ不完全燃焼という気がしないでもない。映像化したら面白いだろうと思うんですけどねえ(そうか、なんか表面だけ撫ぜてる感じで薄っぺらく感じちゃうんだ)。