作家や・ら・わ行

柳広司『トーキョー・プリズン』角川書店

「絶対に外れない予言を知っているかい?」 黙っていると、彼はなおくつくつと笑いながら、私の眼をまっすぐに見つめてなぞなぞ(「なぞなぞ」に傍点)の答えを口にした。 「人は必ず死ぬということだ」 p.29 日本がどんな理由で戦争をはじめたにせよ、結果…

柳広司『トーキョー・プリズン』角川書店

スガモプリズン副所長ジョンソン中佐は、机のむこう側に座ったまま、冷ややかな灰色の眼で、たっぷり一分間かけて私を頭の上から足の先までじろじろと眺め回した。 p.5

矢川澄子『おにいちゃん 回想の澁澤龍彦』筑摩書房

引込思案の少女にははじめのうち、少年をどうよんでいいかわからなかった。でも、親しむにつれて思いついた。ここでは全員がおにいちゃんとよんでいるのだから、自分もそうよばさせてもらおう、と。娘ばかりの家で現実におにいちゃんを一度も有ったことのな…

山崎ナオコーラ『長い終わりが始まる』講談社

小笠原はこのメールを見た途端、ぐしゃりと音がして体が潰れ、目から体液がほとばしり出たような気がした。だが電車内だったので、実際にはクールな顔を保っていた。人前で泣けるほどの年ではなく、小笠原はもう二十三なのだ。 p.91 それにしても、終わりを…

山崎ナオコーラ『長い終わりが始まる』講談社

こういうマンホールの蓋へ、雨上がりにゼラチンを撒いたら、ぺらぺらのゼリーができるだろう。渋谷の空は白く、道路は湿っている。 p.3

吉田修一『さよなら渓谷』新潮社

そんな目に遭ったのは彼女のほうなのに、ずっと考えていると、まるで自分がそんな目に遭ったような気がしてきて……、なんか、誰かに負けたような気がしてきて。でも、この誰かって誰なんすかね?」 p.92 ただ、一人で喋り続けているうちに、自分がそれほど尾…

吉田修一『さよなら渓谷』新潮社

その日の早朝、立花里美は隣家の尾崎宅を訪問した。夫の俊介はまだ眠っており、応対に出たのはパジャマ姿の妻、かなこだった。 p.3

椰月美智子『体育座りで、空を見上げて』幻冬舎

見た目とはうらはらに、私の心は、徐々に波を打ちはじめていた。他人から見られる自分と自分の中の自分、ぜんぶ自分なんだけど、どれも違うような気がして、いつも気持ちがざわざわとしていた。 p.62(「一年三組」) 恋にはほんの少しだけ興味があったけど…

椰月美智子『体育座りで、空を見上げて』幻冬舎

小学校生活最後の学活の議題は「中学生になることへの不安」だった。 p.5

薬丸岳『虚夢』講談社

留美を含めて三人を殺害し、九人に重軽傷を負わせた藤崎が罪に問われることはなかった。この世の中には、人を殺しても、残虐な罪を犯しても、罰せられない者たちがいるのだ。 『刑法三十九条』という法律によって。 心神喪失者の行為は、これを罰しない。 心…

薬丸岳『虚夢』講談社

公園は白い雪で覆われていた。陽の光に照らされた雪がきらきらと輝いている。 p.7

山崎ナオコーラ「秋葉原」(『論理と感性は相反しない』講談社より)

ボルヘスと神田川は、いつも対極にいる。ひとりが旅行へ出れば、もうひとりはその反対側へ用事ができる。二人が出会うことは、永遠にない。 p.129 アンチポデス。

山崎ナオコーラ「人間が出てこない話」(『論理と感性は相反しない』講談社より)

薔薇が赤いのは虫に蜜を吸ってもらいたいから、リンゴが赤いのはキスをせがんでいるから。 p.28 マグマが赤いのは地球の生理みたいなもんで、石が灰色なのはそれが宝石ではないから。ちなみに、宝石がキラキラしているのはみんなに愛されたいから。 p.28

吉田修一『静かな爆弾』中央公論新社

そんな響子の背中を眺めながら、ふと「偽善的」という言葉と、「神様かもしれないぞ、用心、用心」という彼女の文字が重なった。 野良猫にハムをやる。同じ行為のはずなのに、考え方次第でまったく別ものに思える。 施してやる。 施させてもらう。 施してや…

吉田修一『静かな爆弾』中央公論新社

静かな爆弾作者: 吉田修一出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2008/02メディア: 単行本 クリック: 21回この商品を含むブログ (60件) を見る その公園は、午後の四時半で閉門だった。 p.3

山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』

「あれも見てください。あれ、影」 上から灯りで照らされて地面に花の影が落ちていた。風が吹くと淡々と揺れる。 「影の桜もきれいですね」 p.17 …もっと話したいな、二人でもっと話してみたい。エリもきっとそう思っている。そんな気がする。そう思った途…

山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』

カツラ美容室別室作者: 山崎ナオコーラ出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/12/07メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 28回この商品を含むブログ (93件) を見る 「桂美容室別室」の店長、桂孝蔵は、他人の髪の毛を懸命にカットしているが、自分自身…

山本弘『MM9』東京創元社

MM9作者: 山本弘出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2007/12メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 64回この商品を含むブログ (91件) を見る 横浜・石川町駅―― 携帯電話が鳴ったのは午後六時五三分だった。 p.7

矢崎存美『ぶたぶたと秘密のアップルパイ』光文社文庫

けど、あたしは彼のことを、秘密にしたいな」 だって、この秘密は楽しい。信じてもらえなくてもかまわない。自分の秘密は考えていると落ち込んだり悲しくなったりするのに、そんなふうにならない秘密って素敵だ。 p.42

矢崎存美『ぶたぶたと秘密のアップルパイ』光文社文庫

ぶたぶたと秘密のアップルパイ (光文社文庫)作者: 矢崎存美出版社/メーカー: 光文社発売日: 2007/12/06メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (38件) を見る 「誰にも話せない秘密を、そこにいる店員に話してください」 p.7 感想はコ…

よしながふみ『きのう何食べた?』1巻 モーニングKC

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)作者: よしながふみ出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/11/22メディア: コミック購入: 47人 クリック: 2,246回この商品を含むブログ (885件) を見る 料理作ってる時って ちょっと無心に なれるじゃない? だからごはん…