作家あ行

大倉崇裕『聖域』東京創元社

懸垂下降に入る直前、草庭はそっと下を覗き見た。切れ落ちた断崖の先には、何もなかった。高度差四千メートル以上。 p.4(プロローグより) 痺れるような感覚が、指先にまで這い上がってきた。 草庭正義は、指先をさすり続ける。 p.8

井上荒野『切羽へ』新潮社

私たちが見たいのは、一種の「ミシルシ」みたいなものなのかもしれない。この島で私たちが正しく生きているという神託みたいなもの。 p.9(「三月」より) 「ええ、まあ……」 「どうして?」 「どうして」 石和は私の言葉を繰り返し、ちょっと笑った。困って…

井上荒野『切羽へ』新潮社

明け方、夫に抱かれた。 p.3(「三月」より)

飛鳥部勝則『レオナルドの沈黙』東京創元社

「でも、現代のミステリーにも、その類の趣向は頻繁に現れるわね。ノックスのいう当時の単純なパターンではなく、もっとひねられた使い方をされているけど」 「そういうことさ。つまり、ツイストすれば読者は許す。というより現代では、ツイストするしかない…

飛鳥部勝則『レオナルドの沈黙』東京創元社

私ことT・真壁は、名探偵・妹尾悠二氏を大変に尊敬している。 p.4

小川一水『妙なる技の乙女たち』ポプラ社

残念ながら、女がいない。だからなんだ?発明は男だけの特権だとでも? 「創ってやる」 p.21(第一話「天上のデザイナー」より) 自分が大きな苦労を強いられている不動産取引という営みが、本質的にまったく生産的ではないということを認めたくなかったの…

有川浩『別冊 図書館戦争』1 アスキー・メディアワークス

「少なくとも特殊部隊で気づいてなかったのは手塚くらいのもんだわよ!バレバレもいいとこよあんたら、この恥ずかしいカップルめ!誰かお酒!強いお酒をあたしにちょうだい!」 p.22(一、「明日はときどき血の雨が降るでしょう」より) 「もうな、俺はな、…

上橋菜穂子『流れ行く者 ―守り人短編集―』偕成社

あれは浮き籾だってね。実がしっかりはいっていないから、ふらふら浮いちまう。ちゃんと実ることもない、すかすかの籾だって。」 p.19(「浮き籾」より) いかにもカンバルの武人らしい考え方だぜ。生きるも死ぬも己れの力ひとつ。刃を抜くときは己れの命を…

石井桃子『ノンちゃん雲に乗る』福音館書店

ノンちゃんは、いま泣いたと思ったら、もう笑うような子じゃありません。泣いているといったら、泣いているのです! p.15

石井桃子『ノンちゃん雲に乗る』福音館書店

いまから何十年かまえの、ある晴れた春の朝のできごとでした。 p.1

飛鳥部勝則『ヴェロニカの鍵』文藝春秋

「密室トリックということですね」 「推理小説のファンですか」 「いえ、マンガとアニメでしか知りません」 p.128 「人の死をもっと厳粛に受け止めなくていいのか」 彼女はあっさりといった。 「いいんじゃないですか。人の死なんて」 p.129

飛鳥部勝則『ヴェロニカの鍵』文藝春秋

ヴェロニカ。 あなたのことをそう呼びたいと思う。 p.7 今夜も徹夜になるだろう。 p.10

井口ひろみ『月のころはさらなり』新潮社

「ねえ、幸せじゃなくちゃいけないなんて、俺はすっげえ傲慢だと思うよ」 勝てなくて悔しくても、幸せじゃなくて悲しくても。 それさえ忘れなければ、きっと大丈夫。蝉の音を聞きながら、悟は思った。 p.170

井口ひろみ『月のころはさらなり』新潮社

蝉時雨の中で、悟は目を覚ました。 p.3

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「頼むぜ。車間距離ちゃんと取っておけよ。いいか、距離感なんだよ、人生は」 p.237 溝口さんが苦笑する。「それなら何か、自分探しの旅にでも行くのかよ」 「自分探し?探さないですよ。俺、ここいますから」どうして、そんな意味不明なことを溝口さんが言…

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」(『Re-born はじまりの一歩』実業之日本社 より)

「実はお父さん、浮気をしていたんだ」と食卓テーブルで、わたしと向かい合っている父が言った。「相手は、会社の事務職の子で、二十九歳の独身で」 p.229

乾くるみ「マリオネット症候群」(『クラリネット症候群』徳間文庫収録)

クラリネット症候群 (徳間文庫)作者: 乾くるみ出版社/メーカー: 徳間書店発売日: 2008/04/04メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 38回この商品を含むブログ (72件) を見る 最初に思ったのは、夢遊病って、聞いたことあるけど、これがそうなのかなあって。だっ…

上田早夕里『美月の残香』光文社文庫

「職業柄、私には人間の氏名などより、匂いのほうがずっと重要なものに思えるのです。人は顔や名前は変えられても、自分の匂いは変えられません。香水ですらマスキングできない匂いを、人間なら誰でも持っています。しかもそれは、指紋のようにひとりひとり…

乾くるみ「クラリネット症候群」(『クラリネット症候群』徳間文庫収録)

ドとレとミとファとソとラとシの音がでない。 p.323 「クラリネット症候群」て!そういう意味だったのか!もうサイコー♪面白かったー♪

乾くるみ「クラリネット症候群」(『クラリネット症候群』徳間文庫収録)

自分で作った朝食を食べ、後片付けをしているところに、関さんが帰ってきた。 p.181

乾くるみ「マリオネット症候群」(『クラリネット症候群』徳間文庫収録)

やめて、って叫びたいのに、口が動いてくれない。私の身体なのに、ぜんぜん私の自由にならない。 p.8 痛いところを突かれて、私はもう、こう言うしかなかった。 (てへっ) p.151

上田早夕里『美月の残香』光文社文庫

美月の残香 (光文社文庫)作者: 上田早夕里出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/04/10メディア: 文庫 クリック: 9回この商品を含むブログ (15件) を見る ふたごというのは顔だけでなく、匂いも似ているのだろうか。 p.5 遥花は、一卵性のふたごとしてこの世…

有川浩『阪急電車』幻冬舎

「……あんた、結婚準備中に浮気したあげく、生でやったの!?」 (「宝塚南口駅」 p.24) やだな、と翔子は小さな声で呟いた。 「いいもの見ちゃった」 恋の始まるタイミングなんて。――今きつすぎる。 (「宝塚南口駅」 p.30) その瞬間、こらえる間もなく…

有川浩『阪急電車』幻冬舎

阪急電車作者: 有川浩出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2008/01/01メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 211回この商品を含むブログ (381件) を見る 阪急宝塚駅は、梅田(大阪)へ直接向かう宝塚線と、神戸駅へ連結する今津線とが『人』の形に合流している駅…

小川一水『時砂の王』ハヤカワ文庫JA

「私は二千三百年後の世界から来た。だが、ここの未来からではない。多くの滅びた時間枝を渡ってきた」 彌与は息を殺して、男の話に聞き入った。 p.38 時の風はすべてを吹き散らし、時の砂はすべてを埋め尽くす。誰よりもそれらに身をさらしてきたのがOとい…

小川一水『時砂の王』ハヤカワ文庫JA

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)作者: 小川一水出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2007/10/01メディア: 文庫購入: 21人 クリック: 227回この商品を含むブログ (237件) を見る 「みよさま……みよさま!」 少年の叫びが木立の中を追ってくる。怒っているようでもあり…

綾辻行人『深泥丘奇談』メディアファクトリー

深泥丘奇談 (幽BOOKS)作者: 綾辻行人出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2008/02/27メディア: ハードカバー クリック: 16回この商品を含むブログ (65件) を見る この世には不思議なことなど何もない――とは、おそらく今この国で最も有名な古本屋の…

尾崎真理子『現代日本の小説』ちくまプリマー新書

現代日本の小説 (ちくまプリマー新書)作者: 尾崎真理子出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/11メディア: 新書 クリック: 10回この商品を含むブログ (20件) を見る 大江のノーベル賞受賞は九二年に中上健次、九三年に安部公房という純文学の支柱を亡くした…

石持浅海『君の望む死に方』ノン・ノベル

この週末に自分は殺人者となる。 p.38 「動機というのは、他人がどうこう言うべきことではないと思います。恨みの重さ、憎しみの重さ、罪の重さ。皆個人個人で秤を持っています。そしてその目盛りは、人によって違うのです。違う目盛りで他人の心を測ること…

石持浅海『君の望む死に方』ノン・ノベル

君の望む死に方 (ノン・ノベル)作者: 石持浅海出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2008/03メディア: 新書 クリック: 36回この商品を含むブログ (94件) を見る 静岡県熱海市消防本部に一一九番通報があったのは、一月十三日の午前七時四十七分だった。 p.9 「膵…