作品は行

堀江敏幸「プリン」(『未見坂』新潮社収録) 

ひとにあやまるのって、どうしてこうむずかしいのだろうと、悠子さんはあらためて思った。龍田さんの言葉はただしい。潔癖で、正直で、気持ちがいい。けれど、受け取るひとによって、その前置きの部分に正反対の解釈がうまれるかもしれない。そういうことを…

柴崎友香『星のしるし』文藝春秋

「なんもわかってへんな」 「わからなあかんこととちゃうからええねん」 「人生を損してるで」 「わたしは朝陽の知らんことをいっぱい知ってる」 「なにを」 「知らんから説明してもわかれへん」 「あっ、そうか」 p.106〜107 もしかして、神さまに祈ったり…

柴崎友香『星のしるし』文藝春秋

二階のベランダの手すりに腰掛けている二人が、こっちに向かって指差したように見えたので、あの場所から車の中にいるわたしのことは見えるんだろうかと、と思った。 p.3

本谷有希子『偏路』新潮社

宗生 「わしがイライラしとったんは胃腸の調子がおかしかったからや!」 若月 「知らないよそんなもの!家に帰らせろ!」 宗生 「あんたには親を犠牲にして申し訳ないって気持ちがないんか?」 若月 「あんたには挫折した娘をいたわるって気持ちがないんか?…

仁木英之「飄飄薄妃」(『薄妃の恋』新潮社 より)

(そんな俺はどうしたいんだろう。先生とどうなりたいんだろう) p.121 12行目 (じゃあ先生は結局、俺とどうしたいんだろう。どうなりたいんだろう) p.121 19行目 「本当に心から想っているなら、信じられるはずです」 p.138 待つのはつらい。希望があ…

誉田哲也『武士道セブンティーン』文藝春秋

最初の言葉は、ちょっといいと思わない?正しい論理とは、誰にでも分かるような、ごくシンプルなものなんだ、っていうのは」 うん。なんかそれは、いい感じがする。なんか愉快。 p.226 『あのなぁ。そんな、高度競技化だか高速自動化だか知んないけど、そん…

誉田哲也『武士道セブンティーン』文藝春秋

我が心の師、新免武蔵は、自らの人生観を説いた『独行道』の中にこう記している。 いづれの道にも、わかれをかなしまず。 p.8

森見登美彦『美女と竹林』光文社

「二十一世紀は竹林の時代じゃき」 登美彦氏は言った。「諸君、竹林の夜明けぜよ!」 p.21 「なんだか面白そうでいいなあ」と言う人があるかもしれない。 その人は何も分かっていない。 「面白いだけで生きていけたら、なんの苦労もありませんなあ」と、高…

有川浩『別冊図書館戦争2』アスキー・メディアワークス

「すっご、負けず嫌いにも程があるっていうか!」 「昔の話だ、昔の!」 「それにしたって意外と後先考えないタイプですよね!」 「現在進行形で後先考える技能がないお前にそこまで爆笑される謂れはない!」 p.13(「もしもタイムマシンがあったら」) そ…

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』光文社

議論がエキサイトした末に健太郎が放った「そんなに世界の亀山工場が好きなら亀山に住めよ!」という啖呵が望美のベスト賞で、「二人とも家で今使ってるテレビはなんなの」と最後に部長に聞かれ「ブラウン管です」と口を揃えて終わったのも美しい着地と思う…

長嶋有『ぼくは落ち着きがない』光文社

西部劇だ。 望美は思う。 p.5

平山瑞穂『プロトコル』実業之日本社

「地球上にある幸せの合計は変わらないんだ、と俺は思っている」 p.57 そもそもわたしは、そういう席でどのようにふるまっていいかがどうしてもわからないのだ。初対面の、無作為に選ばれた相手に、自分を異性として印象づけることが暗黙のうちに目的として…

平山瑞穂『プロトコル』実業之日本社

モント・ブランク、という謎の音に、子どもの頃のわたしは取り憑かれていた。 p.3

越谷オサム『陽だまりの彼女』新潮社

「へー。運命の出会いって感じだね。で?」 p.96 「ほんとに思い出深いよね。二人が出会った場所だもんね」 p.201 「中学のときにここでキスして自分の気持ちがはっきりして、それからおれが逃げちゃって、再会して、結婚して、またここに帰ってきた。これ…

越谷オサム『陽だまりの彼女』新潮社

何度確かめても、受け取った名刺には「渡来真緒」とある。 p.3

濱野京子『フュージョン』講談社

跳びながら、風を感じる。その瞬間が心地いい。考えてみれば不思議だ。縁がなかった子たちと、学区から離れたところで、縄跳びなんかやってる。あたしたちは、お互いの境遇というのか、家族だとか、それぞれの友だちだとかについて、一切話すことなく、ただ…

濱野京子『フュージョン』講談社

傾きかけた太陽がじりじりと背中に照りつける。 p.3

鴻巣友季子『翻訳のココロ』ポプラ社

身も蓋もないことをいえば、翻訳とはそれじたい、性格のわるい作業なのである。 p.24 原文の含意を伝えるというのが、目標の「バー」だとすると、これを越せなければ、そこで翻訳は敗退である。だからといって、文中にあれもこれもと訳者の補足や工夫を盛り…

有川浩『別冊 図書館戦争』1 アスキー・メディアワークス

「少なくとも特殊部隊で気づいてなかったのは手塚くらいのもんだわよ!バレバレもいいとこよあんたら、この恥ずかしいカップルめ!誰かお酒!強いお酒をあたしにちょうだい!」 p.22(一、「明日はときどき血の雨が降るでしょう」より) 「もうな、俺はな、…

高田侑『フェイバリット』新潮社

何げなく周囲を見回せば、そこには膨大な書物がわたしを取り囲んでいた。そうと気づいて歩き始めてみたら、いつもの図書館がまったく別の場所みたいだ。 『牛はなぜ草からミルクをつくるのか』 断然面白そうなのを見つけた。手にとって眺め、小さく息をつい…

高田侑『フェイバリット』新潮社

近頃、わたしはいけてない。 p.5

竹内真『ビールボーイズ』東京創元社

「ビールってさ、びっくりするぐらいまずいねえ」 「うん。まずい」 p.17(第一回ビール祭 十二歳・秘密基地) 「だから、俺は決めた。俺は先祖ができなかったことをやってやる。――修行の旅で腕を磨いて、いつか新山でビールを造るんだ」 p.159(第七回ビ…

竹内真『ビールボーイズ』東京創元社

ビールボーイズ作者: 竹内真出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2008/02メディア: 単行本 クリック: 8回この商品を含むブログ (9件) を見る ちょっと想像してみてください。 (p.4) 第一回ビール祭は一九八三年に開催された。 p.8

多崎礼『<本の姫>は謳う』2巻 C・NOVELS Fantasia

心の底に波紋が広がった。心を震わせる悲しい和音。まるで音叉のように、俺と彼女の感情が共鳴する。 それは孤独。大切なものをなくした悲しみ。 「そうか」 彼女は手を回し、ぎゅっと俺を抱きしめた。 「お前も、そうだったのか」 p.85〜86 「人は誰であれ…

多崎礼『<本の姫>は謳う』2巻 C・NOVELS Fantasia

“本の姫”は謳う〈2〉 (C・NOVELSファンタジア)作者: 多崎礼,山本ヤマト出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2008/03/01メディア: 新書購入: 3人 クリック: 26回この商品を含むブログ (48件) を見る 夜の街をセラは歩いていく。 p.9

柴崎友香「ブルー、イエロー、オレンジ、オレンジ、レッド」(『主題歌』講談社 収録)

絵莉はその場面が好きで、そこばかり何回も読んだ。恋が始まったときも、終わったときも、読んだ。それで、先週もまた読み返した。 今、目の前で、心がすうっと外へ広がっていくように感じられるほど美しい青色が、自分のせいだったらいいのに。隣にあるミネ…

墨谷渉「パワー系181」(『パワー系181』集英社 収録)

目を閉じて測量男が現れてから帰るまでを通しで頭の中で繰り返した。リカのことをパワー系だ、と測量男は言った。パワー系。 p.33 リカは「パワー系個人クラブ・リカのお部屋」と紙に書いてみた。お部屋?なんかこれが性的サービスを連想させるな、良くない…

墨谷渉「パワー系181」(『パワー系181』集英社 収録)

パワー系181作者: 墨谷渉出版社/メーカー: 集英社発売日: 2008/01/05メディア: 単行本 クリック: 15回この商品を含むブログ (9件) を見る 女は五階と二階とを既に三回往復していた。 p.7

有川浩『阪急電車』幻冬舎

「……あんた、結婚準備中に浮気したあげく、生でやったの!?」 (「宝塚南口駅」 p.24) やだな、と翔子は小さな声で呟いた。 「いいもの見ちゃった」 恋の始まるタイミングなんて。――今きつすぎる。 (「宝塚南口駅」 p.30) その瞬間、こらえる間もなく…

有川浩『阪急電車』幻冬舎

阪急電車作者: 有川浩出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2008/01/01メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 211回この商品を含むブログ (381件) を見る 阪急宝塚駅は、梅田(大阪)へ直接向かう宝塚線と、神戸駅へ連結する今津線とが『人』の形に合流している駅…